森羅万象の旅日記


6  高原の朝

鳥の鳴き声で目を覚ますと、高原の爽やかな朝は快晴である。テントの外に出ると、夜露を含んだ芝生がすがすがしい。これがキャンプの醍醐味だな。しかし、それはいいのだが、め、眼鏡が、ぐちゃぐちゃなのだ。昨夜、酔っ払って寝ていて踏み潰したらしい。

高山に行けば修理してもらえるだろうけど、そこまでどうやって行ったらいいのだ。度付きの水中眼鏡なら持ってきた。
でもなぁー、あれを付けて車を運転する姿は想像するだに恐ろしく滑稽である。

沙らら先生は確かに免許証は持っている。しかしあれは今となっては身分証明証以外の何物でもない。免許取り立てで運転して牛乳屋さんに突っ込み、怪我は全く無かったが牛乳瓶があたり一面散乱して、その物音のすごさに近所の人達が皆飛び出してきたそうである。

あの日からただの一度も車は運転したことがないということである。と、ふと思い出した。車のダッシュボードにスペアの眼鏡を入れたかもしれない。あった、あった、まったく昔の人はうまいことを言う、備えあれば憂いなし。そのとおりだ。これから長い旅、十分気をつけよおっと。

朝食は得意の暖め十二分のご飯とインスタント味噌汁と糠漬け。一応お茶もある。最初は木陰だったが、段々日が高くなるにつれて眩しく暑くなってきた。よし引っ越そう。決まると早い、テントの前と後ろを持ち、たたみもしないで数分間で引越し完了だ。

でもテントを持って歩きながら、この姿を遠くから見たら、まるで大きな亀かカタツムリが移動しているように見えるだろうな、と想像しながら一人でおかしくなった。

しかし、このテントの引越しといい、食事の献立の内容といい、仮にも私は一級建築士であり、調理師でもある。あまりに手抜きじゃありませんか、などと言う声は全く無視して、いそいそと木陰の涼しい場所に引っ越したのでありました。

今日は、此処でもう一泊する予定なのだが、テントの前に広がったこの荷物をどうしよう。ちゃぶ台(どう見ても、ちゃぶ台)、ダンボールに入った鍋、やかん、まな板、座布団、・・・・。これらは日常我が家で使っているものばかりである。

こう書くと、我々がどのようなキャンプ生活を送っているか大体想像できるでしょう。少なくともアウトドアーなどと言う横文字は出てこないとおもいます。
今問題なのは、このキャンプ道具らしきものをとりあえず片付けるかどうかということなのです。

結局、これらを持っていく物好きな人もいないだろう、ということになり一路高山の町にむかうことにした。

風水ワンポイントアドバイス

テントの引越しもそうですが、引っ越す方角には十分注意しなくてはなりません。
今年は五黄土星が北に位置しています。五黄土星が位置する方角を五黄殺と言って最も怖い方角となります。

五黄土星が居る反対側、今年は南になりますが、この方角を暗剣殺と言って非常に怖い方角となります。五黄殺と暗剣殺を二大凶殺と言って、引越しや長期の旅行には絶対使ってはいけません。

今年は北と南になります。これについては風水入門で詳しく述べます。


鬼博の余談

私は以前よく「日本中を走破するために大学に七年間もいた」と言いましたが、あれは嘘です。 高山にまだ行っていません。

それと出席日数も足りませんでした。構造力学も悲しいほど苦手でした。現在学生たちに、授業をさぼったら単位をやらん、とか、何でこんな簡単なことがわからないんだ、とか偉そうなことを言っている自分はいったい何なのでしょう。

今だから告白します、大学七年生となった冬のことです。一年生の時取らなければならない実験の単位がどうしても足りません。教授はレポートを出せば良いと言ってくれますが、レポートを見せてくれるような一年生の友人などいるわけありません。

もういちど教授の所に行き次のように懇願しました。「やっと就職も決まり、年年老いた田舎のお袋も心の底から喜んでくれて、長い大学生活にピリオドを打ち新しい人生が始まります。もしこれが卒業できないと言うようなことになると年老いた母に合わせる顔がありません」。

年老いた母という一言がきいたのか、それではということになり、地下にある実験室に連れていかれました。その室は天井の高さが五メートルもあり、各種の大きな実験用の機械が並んでいました。そして教授が言うのには、此処を清掃せよと言うのです。

三時間後に助手が見に来て了解したら、単位をくれるとのことです。私としては非常にラッキーな取引である。が、何しろ広いし高いし、複雑なのだ。しかし幸いなことに電気が暗い、ためしにちょっと水をまいてみると、いかにも掃除をしたかのように見えるのであった。

十分もかからず水撒き作業は終わってしまったので、近くの喫茶店で時間を潰して約束の時間の少し前に実験室に戻ってきた。時間どうりに来た助手は水をまいただけの室を見て、よし、よくできている、とおっしゃってくれました。

階段を上がっていく助手の方の後姿に、深々と一礼をしながらつぶやきました。これにて、一見卒業、しかし就職の決まっていない私は配送の運転手としての日々が待っているのでした。


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